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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1435号 判決 1957年12月24日

控訴人 原告 株式会社沖山商店

訴訟代理人 佐藤成雄

被控訴人 被告 株式会社吉永商店

訴訟代理人 秋根久太

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し、登録第三〇二一四二号商標について、昭和二十一年七月十一日営業の廃止による抹消登録手続をせよ。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立て、被控訴代理人は、本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、全部原判決の記載と同一であるから、これを引用する。

理由

一、被控訴人は、現に登録第三〇二一四二号商標について、商標権者として登録されているものであるが、右の商標は「OMEGA」の欧文字と図案化した「オメガ」の仮名文字とを二段に左横書にして構成された商標であつて、昭和十三年三月二十八日訴外渡辺節三のため、第十七類バルブ、コツクその他本類に属する商品を指定商品として登録されたものであること。渡辺節三は昭和二十一年七月十一日死亡し、訴外渡辺久子が相続人となつたが、訴外和田慶三は昭和二十六年三月二日渡辺久子から右商標権を譲り受け、更に被控訴人は、和田慶三から昭和二十六年十一月十五日その指定商品の一部を分割して、譲受け、次いで昭和二十七年四月三十日残部を譲受け、それぞれ当時移転の登録を経て、これが商標権者として商標原簿上記載されるにいたつたものであること。しかるにこれより先、渡辺節三は昭和十七年頃戦時企業統制によりその営業を中止したが、昭和二十一年七月十一日その死亡と同時に一切の営業を完全に廃止し、相続人である渡辺久子も何等の営業を行うことなく、昭和二十六年にいたり、営業とは何等の関連もなく、単なる商標原簿上の形式的商標権を和田慶三に譲渡し、次いで被控訴人がこれを譲り受けたものであることは、すべて当事者間に争のないところである。

してみれば渡辺節三のため登録によつて発生した右登録第三〇二一四二号商標権は、昭和二十一年七月十一日同人の前記認定にかかる営業の廃止により消滅したものといわなければならない。

被控訴代理人は、商標権は営業が廃止されても、商標原簿上その登録が抹消されない限り消滅するものでないと主張するが、営業の廃止による商標権の消滅の効力が、何等の処分をも要することなく、当然に、かつ何人に対する関係においても確定的に発生するものであることは、商標法第十三条及び同法第二十四条により準用せられる特許法第四十五条の規定に徴し明白であるから、右被控訴人の主張はこれを採用することができない。

二、進んで控訴人の右登録の抹消登録手続の請求について判断するに、商標法第二条第一項第九号によれば、登録した商標は、爾後他人の、同一または類似の商品についての、同一または類似の商標の登録を拒絶する原因となり、また同法第七条によれば、商標権は登録によつて発生し、商標権者は指定商品について、その商標を専用する権利を有し、原則として、他の一切の、同一または類似の商標を、同一または類似の商品について使用する者に対し、その使用の禁止を請求することができる、いわゆる対世的の排他的権能を本質とするものであるから、すでに前述のように、その実質において消滅し、無効に帰している商標権の登録を、これ以上存続せしめなければならない必要は毫末も存在しないばかりでなく、却つてこれを存続せしめることは、未だ前述の権能が実在することを思わしめる危険があるから(事実、商標登録出願の審査にあたり、審査官は前記第二条第一項第九号に該当する商標について、これが営業の廃止の有無を、みずから進んでは調査せず、また商標法上も、特にこれを要求してはいない。)、「商標ニ関スル審判其ノ他ノ手続ノ費用及登録ニ関スル件」(大正十年勅令第四六四号)第四条は、営業の廃止による商標権は、登録名義人の申請及び職権によつてこれをなすことを規定しているが、当該商標の登録の抹消について正当の利害関係を有するものは、登録名義人の申請又は職権の発動を待たず、(特許庁は、当然のことではあるが、この種の職権の発動については甚だ慎重である。)表見上の権利者を相手方として、権利の存在しないことの確定判決を求め得るばかりでなく、進んでその登録について抹消登録手続を求め得べきものであることは、前記権利の性質上当然であるといわなければならない。

三、控訴人が第十七類に属するライターの販売を業とし、昭和二十六年頃からその商品に「オメガ」の商標を使用している者であることは、当事者間に争のないところであるから、控訴人は、被控訴人の前記商標の登録の抹消について、正当の利害関係を有するものであつて、控訴人の本件抹消登録手続の請求は、その理由があるものといわなければならない。

以上の理由により、原判決中控訴人の抹消登録手続の請求を棄却した部分を取り消し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十六条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決した。

(裁判長判事 内田護文 判事 原増司 判事 谷口茂栄)

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